親子なのに、子どもがなにを考えているのかわからないし、部屋でなにをやっているのかもわからない。
夫婦なのに、家庭内離婚状態で、ろくに口もきかない。
家族なんだから気持ちが通いあうはず、とか、親子なんだから愛情があるはず、なんてかんたんには言えないことがわかってきたようだ。
では、家族はどうコミュニケーションしたらいいのか。
どういう家族がいい家族で、子どものためにもなるのか。
そんな議論が、いろんな場でなされている。
私は、「家族なんだから」という当然のことのような言い方が、気になっている。
血のつながった親子とか、好きになって結婚した夫婦なんだから、当然のようにあたたかい家族になるものだ、なんて、考えが甘い気がする。
逆ではないのだろうか。
家族なんだからいっしょに住んでいるのではなく、いっしょに住んでいるから家族になる。
家族だから同じ家に住むのではなく、同じ家に住むのが家族なのだ。
同じ家に住む、とは、ただ、ひとつの家に寝起きしている、ということではない。
それなら下宿人も家族ということになる。
そうではなくて、同じ家に住む一人ひとりが、それぞれに自分の住む家をいごこちよくしようと気を配りながら生活する。
自分のできることをしながら、そこにいっしょに住む人に自分のできないことをやってもらう。
いっしょに住むからには、相手にとってもいごこちよくなるように、自分勝手にふるまわない。
ひとつの家で気持ちよく暮らそうとする努力をとおして、それぞればらばらな人間がひとつにつながっていくのが家族なのではないか、と思うのである。
言葉で書くと、めんどうくさいことのように聞こえるけれど、行動で考えると単純なこと。
朝、食事の準備を妻がしていたら、食器を出してお母さんの手伝いをする。
夫が、夫はたとえば布団をたたむ。
子どもは居間のカーテンが古くなっていることに気づいたら、「新しいのに替えておいて」と妻に言うだけではなくて、「じゃあ、何色にしようか」と家族が相談する。
子どもだって、「僕は緑がいい」などと主張すればいい。
居間のインテリアを妻だけがあれこれ考えるのではなくて、家族で家具を見にいく。
いっしょに住んでいるのだから、いるのかいないのか、いつ帰るのか、などは知らせあう。
顔を合わせても無言でいるとお互い不愉快なものだから、「おはよう」とか「ただいま」とかの挨拶を交わす。
「用がなければ自分の部屋にこもっていてもいいじゃない」ではなくて、いっしょに住むことにしているのならば、顔を見せたり、挨拶したり、共同で使う部屋の掃除をしたりするのは義務なのだ。
相手が話したいことがあるなら、それを聞いてあげるのは、ともに暮らす者の役目なのだ。
それが嫌なら、同じ家に住むべきではない。
親に養われている子どもには、「そんなのは嫌だ」と言う権利はない。
親といっしょに暮らさなければ生きていけないのだから、お互いに気持ちよく暮らせるように努力しなければならない。
そうやって、同じ家に気持ちよく暮らす努力は、「家族なんだから」と否応のない強制になると、つらい努力にもなるだろう。
でも、「いっしょに住みたいと思っているんだから」と思うなら、楽しい努力ではないだろうか。
義務とは、誰かがあなたをむりにしばりつけるものではなくて、自らよりよく生きるために自分に課すものなのだから。
きっと、「いっしょにいたい」と思う者どうしが、家族なのだろう。
現実には、長期の単身赴任などがあってその思いが果たされないこともあるだろうけれど、それでも「この人といっしょに住みたい」という思いがなければ、夫婦や家族としては気持ちがつながらないように思う。
そう考えると、たとえ血がつながっていなくても、ともに住むことを選び、そのことをたいせつに思っている人間どうしは家族になるのではないか。
自分かいごこちよく生きるために、いっしょに住んでいる家を気持ちよくする具体的な作業が、結局はそこに住む人みんながいごこちいい家をつくり、ちゃんと心がつながりあっている家族をつくるのではないだろうか。
子どもがたどたどしいながら、一人前のことをしゃべるようになってきた頃、「おそとのごはんが、いちばんおいしいね」と言いだしてあせったことがある。
夫婦とも働いているので、週に一、二回は家族で夕食を外で食べている。
当時、子どもは小さかったから、外食してもそれほど好みのメニューがあるわけでもないし、ごはんだけしか口にしないことも珍しくなかった。
それなのに、「おそとのごはんが、いちばんおいしい」である。
あせった私は、考えた。
外に行けば「おいしいね」などと言いながら食事するわけで、その会話を聞いていてそんなことを言いだしたのではないだろうか。
それで、その後は、家で食べているときは「おうちのごはんが、いちばんおいしいね」と夫と口を合わせ、夫も「おかあさんのつくるごはんが、いちばんおいしいね」と子どもに語りかけていた。
夫はよくも悪くも嘘が言えないたちで、ほんとうにおいしいと思ったときだけ「おかあさんのごはんが、いちばん」と言ってくれるから、説得力があるのである。
もちろん、私も、おいしいなあ、と思ったときには「おとうさんがつくるごはんは、ほんとうにおいしいね」と、それまで以上にロに出してはいけない。
外で食べるときは、「おそとのごはんも、おいしいね。
でも、おうちのほうがもっとおいしいね」などと、アピールを繰りかえすようにした。
その成果があってか、そのとき以来、子どもは、家で食事をしながらにこにこと「おうちのごはんが、いちばんおいしいね」と言う。
たとえ、ふりかけごはんを食べているときにもそう言う。
食事のしたくが遅くなったとき、「今日は、おそとで食べる?」と訊くと、「やだ、おうちのごはんがいい」と返事をする。
疲れてしまっていて「今日はおそとに行こうね」と言うと「うーん、じゃあ、おそとでもいいよ」と言ってくれるようになった。
これは、子育ての話ではない。
人は、自分の発した言葉に左右されるものらしい、という話なのだ。
よく、子どもや部下への接し方として、「減点主義より加算主義」が効果的だ、と言われる。
つまりけなすよりも褒めて育てろ、ということだ。
これは、他人に向けてだけではなくて、自分白身の意識についても同じことであるらしい。
「家にいてもつまらない」「しょうがないから家に帰るか」などと言っていては、家がつまらない場所になってもしかたがない。
「うちは狭いから」「うちは古くて汚い家だから」と言っていては、家への愛情が湧くはずもない。
それであきらめたり、どうでもいいと思ってほうっておくから、ますます家はいごこちが悪くなる。
「うちはいい家だね」「家にいるとほっとするね」という会話を、ごく日常的に交わせるといい。
そういう会話から、家に対する関心が生まれ、「自分の居場所はこの家なんだ」という意識が備わる。
言葉には、そういう力がある。
以前、「誰でも、旅行から帰ってきたときに『ああ、家がいちばん』と思うもの」と書いたことがある。
何人かから「そうですよね」と共感してもらえて、私としても嬉しかったのだが、「家がいちばん」と言えるのはしあわせなことだと思うし、そう言ってくれる住み手を得た家もしあわせに違いない。
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